A01-9-16

組織と病期分類を規定する腫瘍エピゲノムへの介入によるシステム理解

研究室ホームページ http://www.pref.chiba.lg.jp/gan/kenkyujo/

エピジェネティックな変化は様々な生物現象に関与し、個々人のがん病態を後天的にも規定することが示唆されている。このエピジェネティックな変化により腫瘍エピゲノムが構築される。すなわち、環境による影響を受けやすい塩基配列情報以外のエピジェネティックな変化は、正常細胞からそれぞれの臓器で進むがん化に関与すると考えられ、さらにがんの浸潤や転移といったがんの進行度にも関与しそれぞれのがんでそれぞれの進行度に応じて様々なエピゲノムを構築する。エピジェネティックな変化は可逆的であり、環境・物質などの外部からの介入により人為的に変更することも可能である。

我々は生体(実験動物など)でエピジェネティックな変化を塩基配列特異的にコントロールする技術をDNAに配列特異的に結合するピロールイミダゾールポリアミド(PIP)とヒストン修飾酵素の阻害剤もしくは活性化剤との複合体を合成することで実現し、特定のゲノム領域でのヒストン修飾を変更する“Homing Drugs”の開発に成功している(特許 第4873510号)。

ヒストン脱アセチル化阻害剤であるSAHAとPIPの複合化合物に加え、さらにヒストンアセチル化酵素の活性化剤CTBとPIPとの複合体の形成にも成功し、異なるヒストンアセチル化の誘導機序で同じ遺伝子配列認識PIPで複合体を形成すると予想された通り、同様のエピゲノムの変更が可能であることおよびエピゲノムの変更に伴う遺伝子発現の変化がほぼ同一であることを正常細胞(ヒト皮膚繊維芽細胞)で確認することが出来た。

さらにPIPの細胞内でのゲノム配列認識を確認するため、PIPをビオチンでラベルし、細胞へ投与後に結合したDNAフラグメントを共沈し、DNAフラグメントの配列をシークエンサーで確認することで、細胞内でのPIPの配列認識を確認するChemSeq法も開発できている。本課題ではこれらのエピゲノムに介入できる技術を駆使して、後天的にどのようなエピゲノムの介入を行えばがんの進展や進行を阻止できるかをゲノム情報とがん細胞から得られる遺伝子発現情報を大規模なデータ(ビッグデータ)として収集し、スーパーコンピュータなどを駆使した数理解析を行うことで解明していく。