A02-5-16
研究室ホームページ http://www.nccri.ncc.go.jp/s010/010/030/20151209203951.html
本邦における肺がんは男女ともにがん死因上位を占める難治がんであり、罹患数は年々増加傾向にあります。近年のゲノム研究の進歩により、ある一部のがん遺伝子の内、がんの発生・進展において直接的に重要な役割を果たすドライバー遺伝子(例えば、EGFR変異、ALK融合、ROS融合、RET融合遺伝子等)の体細胞変異を治療標的とした複数の薬剤が開発されてきました。しかしながら多くの患者さんは、一時的にがんの進行を押さえられますが、再び増悪することが知られており、進行性肺がんに対する根治はきわめて難しいのが現状です。そのため、治療効果が得られない原因を解明することが急務となっています。また、進行性肺がんの5年生存率は20%以下であるのに対して、早期肺がんの5年生存率は70%以上であることから、肺がんに対する術後再発高危険度群を捕捉し、術後再発を抑制することができれば、肺がん死抑制のための有益な手段となりうると考えられます。現状では、術後再発を抑制することを目的に術後化学療法が施行されていますが、効果は限定的であるため有効なバイオマーカーの同定が極めて重要と考えられています(Arriagada et al., N Engl J Med. 2004; 350(4): p351-360.)。
近年免疫療法によるがん治療の有用性が徐々に示唆されており、免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブが扁平上皮非小細胞性肺がんに対する治療薬として承認されました。現状ではHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)の多様性が治療効果にどのような影響を与えるかは不明ですが、自己と非自己を認識するために必要なHLA遺伝子が、がん免疫において重要な役割を果たしている可能性は極めて高いと考えられます。
一方で、HLA領域は非常に多様性に富むため、ゲノム解析は積極的に行われてきませんでした。しかし最近のゲノム解析技術の進歩により、日本人集団におけるHLA領域のレファレンスパネルが構築され、それらを基にHLA imputation法が開発されました。この解析技術を用いることで、既存のSNPチップのデータがあれば、HLAアレルの推定が可能になりました(Okada et al., Nat Genet. 2015; 47(7): p798-802.)。本研究では、既取得SNP チップデータに基づき、HLAアレルを含む一塩基多型(SNP)を推定し、術後再発や治療応答性と関連するHLAアレルの同定を目指します。またこれらの成果を基に、HLAの多様性を含む胚細胞系列変異とがん細胞由来の体細胞変異情報を統合することで、がんの本態解明や効率的な治療法の開発に繋げていけたらと考えています。