がんの個体あるいはその個体の細胞を細胞文脈という概念で俯瞰的に理解することが肝要です。本研究は、種々の悪性特性が検証できるモデルがん細胞株を確立して用い、またがん細胞株や臨床サンプルのオミックス解析データなどに基づいて、個々で異なるがん細胞文脈のシステム的統合理解を図り、その情報に基づいたがん診断と治療の最適化方法を確立します。スーパーコンピュータ・計算システム生物学・遺伝統計学的解析・疫学的手法を駆使して実施します。
がんゲノムの大量並列シークエンスによって、がん研究は時代を画する大転換期を迎えています。その初期フェーズにおいては、主要ながん腫に関する蛋白翻訳領域の主なドライバー変異の同定が終了しつつありますが、がんの時間的・空間的な多様性、また非翻訳領域における変異・ エピジェネティックな変化の重要性、個々人における胚細胞変異の重要性、また、その起源となる細胞から発がんに至る発がんの初期過程の理解が、がんの予防・早期診断・治療・治療耐性の革新を図る上で不可欠な課題であることが明らかとなりつつあります。本研究は、がんをダーウィン進化によってドライブされ変動する細胞集団として捉えた上で、その駆動力となる遺伝子変異・エピジェネティクを最先端のゲノムシークエンスとスーパコンピューティングを駆使して解明し、がんの個体における多様性、また腫瘍内における多様性、さらには、そのクローン進化における多様性を獲得する進化の全体像を捉え、その病態の本質的な理解とこれを通じた新たながんの治療戦略に迫ります。多種のがんに渡る数千~万の検体の解析を行います。
がんのゲノム研究領域の未踏破の分野とも言えるロングノンコーディング RNA (lncRNA) が、がんの発生・進展過程において果たす役割とその分子機序を解明します。スーパーコンピュータを用いて発現制御ネットワークの全ゲノム的な俯瞰的推定にもとづいた制御関係の鍵となるハブ遺伝子の探索や、TTF-1、ASH1、MYC 等のがん関連遺伝子の標的或いは、機能的協働分子として機能する lncRNA の探索等を、実験とシステム生物学的解析を統合しつつ進めます。
ヒト集団における生殖細胞系列遺伝子変異や体細胞系列遺伝子変異の遺伝的背景の多様性や、多臓器間遺伝子発現プロファイル、治療薬標的遺伝子ネットワークといった多彩な医学的/生物学的ビッグデータを対象に、データベース横断的な大規模 in silico 解析に基づくがん疾患の発症プロセスのモデル化と、それらの情報を活用したゲノム創薬手法の開発を行います。
A01 班のデータ解析支援とともに、計算システム学・大規模データ解析によるがんのシステム異常の俯瞰的解析法を導入・開発し、局所へ自在にシャトルする情報方式を開発・導入します。多観点からのがん進化モデルを構築し、がんのヘテロ性、薬剤耐性獲得等のシステム的数理原理の解明を行います。また IBM Watson に象徴される Cognitive Computing をがん研究に導入し、システムがん研究が新たに直面している前述の諸課題に解決法を与え、がん研究を新次元へ転送します。
がんゲノム研究の大規模化により利活用しうる膨大なゲノムデータが創出され、また、がんの生涯罹患率の上昇も後押しする形で、「未病」段階から研究・診療目的のゲノム解析を経験する時代を迎えています。本研究は、これまで捉えられてこなかったがんに関する ELSI 課題を先取りし、がん研究者、情報系研究者と連携しながら新たな位相に位置するがん ELSI 研究を学問分野として錬成し、現在の我々の想像を超えたがんゲノム研究・診療を支え、時に対峙しうる人文・社会科学の枠組みを構築します。